Oracleユーザーに起こるある出来事
担当営業が訪問してきた。その真の目的は何か?
ベンダーと長いお付き合いをしてくると、お互い信頼の上に会話がなされます。ベンダーの担当営業も「御社が引き続き成長するためにも、ぜひ有益な提案をしたい」と、Win-Winの関係を維持するために必要なアプローチをしてくるでしょう。しかしユーザーには、それが本当にWin-Winの関係を望んでの提案なのかをぜひ見極めていただきたいものです。勿論、結果的にWin-Winになる提案のための訪問かもしれません。ですが少なくとも最終的にはベンダーが必ずWinになり、ユーザー側はlostになるケースが多いことを肝に銘じていただきたい思います。間違っても最終的にベンダーがLostになるような提案は絶対にしてきません。それはビジネスの基本だからです。従っていくら良い関係だからと言って、担当営業が聞いてくることに真正直に安易に答えてはいけません。ましてや自分から積極的に情報を開示するなど以ての外です。言葉は悪いですが、担当営業はユーザーから聞き出した情報をもとに、自らがWinになることを第一優先とします。勿論、それは悪いことではありません。ビジネスとはそういうものですから。ただユーザーはそれを前提に、担当営業の訪問の真の目的は何かを知ることが非常に重要なポイントになります。
ちょっとした一言で、大きな決断をせざるを得ない状況に追い込まれる
担当営業の真の目的を知ることが重要であることは先に述べた通りです。とは言え、相手を疑ってかかるのも決して気分の良いものではありませんが、ここでは実例を一つ挙げてみることにしましょう。
ある日Oracleの担当営業が訪問してきます。目的は「御社の成長のためのITシステムの見直し提案」です。複雑化した現在のITシステムの見直しは是非考えてみたいし、それによって高止まりしている年間の保守料も低減させることができるかもしれません。そんな期待をもって担当営業と会話をしていると、その担当から「良い提案をしたいので、御社の現在のIT環境を教えて欲しい。特に仮想環境はリソースの有効利用という点から改善の余地が大きいので、まずは仮想環境の構成図を見せて欲しい」と依頼を受けます。勿論あなたは何の疑いなく仮想環境の構成図を見せることでしょう。
実はこれが大きな問題に発展する切っ掛けとなります。/,p>
Oracleは仮想環境に対して個別のライセンス定義をしていません。仮想環境と言えども、物理環境と同じ定義が適用されます。唯一の例外は、OracleがHard Partitionと認定している仮想化技術に対する考え方ですが、VMWareなど、Hard Partitionに分類されていない仮想化技術を使用している場合、必要となるOracleのライセンスは莫大な数になります。
Oracleはあなたから入手した仮想環境の構成図から、そこで必要となるライセンス数をシミュレーションします。シミュレーションは至って簡単な足し算です。その結果、VMwareを使用しているあなたは大量のライセンス不足を指摘されます。金額に換算すると150億円~200億円のコンプライアンス違反です。
そう、良かれと思って提供した仮想環境の構成図は、良い提案どころか、ライセンス違反の確認のために使用されているのです。
「良い提案を考えていたのですが、現状の構成では大規模なライセンス違反があります。残念ですが・・・。」との担当営業からの言葉に、あなたはこれからどう対処するでしょうか?
二者択一
この事実に担当営業が勧める提案はこうです。「いただいた仮想環境の構成図から必要なライセンス数を暫定計算したところ、150億円~200億円相当のライセンスが不足していることが分かりました。これはライセンスコンプライアンス違反です。すぐに是正していただかなければなりませんが、これほどの高額を支払っていただくのは難しいでしょうし、現実的ではないと思います。そこで良い提案があります。今お持ちのライセンス契約を、無制限ライセンス契約(Unlimited License Agreement:ULA)に切り替えませんか?」と。
ULAとはあらかじめ選択した製品のライセンスを、決められた期間(通常は3年または5年間)、数量無制限に使用できるライセンス契約です。無制限に使用できるので、ライセンス不足という問題は一気に解消します。勿論、ULAを締結しても締結前までの違反が解消されるわけではありません。あくまで締結後は違反状態が解消されるということです。本来であれば、Oracleは違反が発生した時点に遡って是正遡及を要求しますが、ULAの締結と引き換えに、それまでの違反については言及しないというのが、今現在Oracleが行うスタンダードな提案です。それでもULAは一般的に高額な契約になります。通常、3年間で(規模にもよりますが)数億円~20億円弱でしょう。100億円を超える違反を是正することを考えれば遥かに安い買い物ですが、それでも高額であることには変わりありません。
あなたは気づきましたか?「会社の更なる成長に貢献できる提案」を期待していたのに、仮想環境の構成図を良かれと思って提示してしまった結果、「どうやってライセンスコンプライアンスを解消するか」という全く別のテーマに話が変わってしまっているのです。
しかもここで「ULAは標準的な契約ではないので提案は一度しかできません。今すぐULAに切り替えるか、でなければ違反があることは明白なので、正確に調べるために監査を受けていただくか、どちらかを選択していただく必要があります」とあなたに二者択一を迫ってきます。
ここでULAの提案を断れば、正式な監査によって違反の金額が確定してしまい、支払い金額はULAの提案額を優に超えてしまいます。ULAに切り替えるか監査を受けるはユーザー次第ですが、どちらにしても想定外の高額なファイナンスリスクは、この時点で最早、回避できなくなっているのです。